田口 Mステ 最後
泣かないわけがなかった。ただでさえ涙もろい私があんなものを見せられて泣かずにいられるわけがない。 田口さんが脱退を発表してから、それについて深くはブログに書くまいとしてきた。それをやるのは本当にKAT-TUNを応援してきた人達であって、浅い知識しかない私のような人間がいっちょ前に何か書いたところで絶対的に薄っぺらいからだ。 彼らがデビューしてからはずっと「なんとなくコワイ人達」という、つまりはヤンキー的なイメージに圧倒されていた私が今更薄い言葉を並べたところで何の価値もない。 それに田口さんが脱退を発表した後、ネット上でその気持ちもわかるし、時には でもやっぱり、そんな部外者の私でもあの発表で受けた衝撃は大きくて、尾を引いた。なぜあの場所での発表を選んだのか、今でもあまりよくわかっていない。もっといい発表の仕方もあったのでは?と思ったりもする。 発表のやり方についても、そしてこのアニバーサリー前の最悪とも言える時期に脱退するということに対しても、そして肝心の脱退理由や今後について多くを語ろうとしない田口さんの態度にも、当然不満の声は上がる。 そこから時間をおいて2016年2月13日、活動休止することが発表された。 この数ヶ月、私がざっと見た限りでも激動だ。しかし何を言ったところで「田口さんがKAT-TUNを辞める」「KAT-TUNが3人になる」ことは、確実に訪れる未来として突きつけられた現実だった。 そしてその4人での最後の活動は今週のミュージックステーションSPの場となった。 まず先に楽曲、「Real Face」と「君のユメ ぼくのユメ」についての感想を書かせてもらいたい。 私はスガシカオさんのそこそこファンである。ワンマンライブにも何度か行ったし、過去に所属していたオフィスオーガスタのフェス「オーガスタキャンプ」にも行ったことがある。あの頃スガさんは相当な雨男として名を馳せていて、この時も彼の出番になった瞬間に遠くから真っ黒い雲が近づき始めたのが忘れられない。 結局出番中には雨は降らず、ステージ上では刻一刻と雨雲が近づいてきていることなど知らないスガさんが「オレは勝った!(雨雲に)」などとはしゃいでいた。 しかし客席にいる私たちから見える景色はという状況だった。迫り来るどす黒い雨雲に怯えながら野外フェスを楽しもうとする観客たち。はしゃぎにはしゃぎ、しまいには「オレの名前を呼んでくれー!!!」と煽るご機嫌なスガ氏。演奏は素晴らしかったが、この温度差がおもしろくて笑いが止まらなかった。 ギリギリで雨をかわしたスガさんではあったが、後の出演者の時に雨が降ったのはいうまでもない。なんなら遠くに稲妻まで光っていた。 それから数年後、事務所からの独立を発表。しばらくはフリーとして活動していたためメジャーシーンからは少し離れていた。 最近見かけないな…と長らく思われていた方、実はそんな背景があったのである。現在は別のレーベルと契約し、再びメジャーに戻ってきた。そうしてようやく発売されたオリジナルアルバムは、実に6年ぶりのものとなった。 「Real Face」がKAT-TUNのデビュー曲で、その作詞をスガさんが手掛けると知って歌詞を見た時の感想は「随分とKAT-TUNに寄せたなぁ」だった。 言葉選びこそスガさんらしいのだが、文字としての並べ方がものすごく若く、青い。 そういえば聞こえはいいのだけれど「おじさんがちょっと頑張り気味にジャニーズ期待の若手のためにあつらえた、若さ溢れる歌詞」と感じた。なんだかいつもより、いや、今までとは少し違った形で若ぶっている。なので「寄せたな」と思ったし、少し微笑ましくもあった。 さらにこの楽曲はB'zの松本孝弘さん作曲である。これまたロックであまりB'zについて、松本さんについて知らなくてもいかにも「らしさ」を感じてしまう楽曲だ。この楽曲に歌詞を乗せるとすればおそらく誰が書いてもこういった歌詞になるだろうな、と思ってしまうくらいに楽曲自体もトゲトゲしている。 簡単に言うと根拠はないがそれでもなんとなく感じる無敵感。 CDデビューの頃にはすでに出来上がっていた。2001年結成、2006年にようやくデビューだったのだからそれも当然だ。 KAT-TUNが結成した時にはその存在を知っていた。時期的に言って、もしかするとはじめて「ジャニーズJr.内でグループ結成→デビュー」の形をしっかりと目撃したグループだったかもしれない。 KAT-TUNの曲の印象として「そこに漂う無敵感」というのは今もやっぱりどこかにある。メンバーの絶対的な自信を感じるパフォーマンスには正直私はずっとビビっていた。「お、おお…なんかすげえな…」みたいなそんな感じだ。 「Real Face」で随所に散りばめられた青臭さはKAT-TUNが歌うと異様に刺々しく感じるし、なんだかヒリヒリさえする。 後にスガさんもセルフカバーしているがイントロからあまりのイメージの差に思わず吹いてしまった。こちらもかっこいいのだが尖り方に違いを感じるから不思議だ。KAT-TUNの尖り方がヤンキーのようなわかりやすい感じだとすれば、スガさんの場合は スガさんの歌詞の世界観は、大々的にではないかもしれないがいたるところで評価されている。 以前Mr.Childrenの桜井和寿さんは「スガシカオの登場で歌詞の書き方が変わった」と語っていた。秋元康さんは「難しい言葉を使わずに哲学的・文学的な表現ができる稀有なシンガー・ソングライター」と評した。 この機会に読み返した本に、こんな文章があった。スガさんの歌詞について秋元康さんが語っている一節なのだが、このタイミングだからなのか余計に感じるものがあった。「きっと誰もが持っている弱さや愚かさをしっかり描いているからこそ、多くの人々の共感を得ているんだと思うんですよ。歌の主人公はナーバスで繊細。かと言って、華奢ではない。したたかさもしなやかさも持っている。欠点もたくさんあるけど、しょうがないよな、だって人間なんだからさ、というような大きなまなざしがある。君も僕も同じ人間で、君も欠けている部分があるし、僕も欠けている部分があるよ、でもイケてると思うよというのが混在している。おそらくスガさんがすごく優しい人だから、こういう世界を描けるんだろうなと思いますね。」 スガさんの書く歌詞は青くさいような内容のものも多い。だからこそそれが多くの人の胸を打つし、私なんかは泣いてしまう。 ジャニーズに提供した曲で言えばSMAPの「夜空ノムコウ」、嵐の「アオゾラペダル」、そしてKAT-TUNの「Real Face」。いずれもセルフカバーされている。 含みをもたせたようなカタカナ表記はスガさんがよく使うものだ。 自身の曲に「真夏の夜のユメ」という曲がある。ぼくは孤独でウソつきいつもユメばかり見てる真夜中 ぼくは夢を見てひどくうなされて目をさました真夏の夜の暗い夢窓の外に果てしないヤミ(「真夏の夜の夢」/スガシカオ)ここでは「夢」「ユメ」と使い分けされている。 同じ単語であってもニュアンスで使い分ける、その理由について語っているインタビューを見つけた。 「漢字やひらがなは元々が象形文字に由来する分、イメージや固定概念が文字そのものにつきやすいと思っています。例えば「イジメテミタイ」というセクシャルな曲の場合、「いじめてみたい」と表記すると密室の思い詰めた感じがなくなるし、「虐めてみたい」だと昭和の日活ロマンポルノのイメージになってしまいます。カタカナ表記は、いわば匂い消しみたいなものでしょうか。」 今回のKAT-TUNの新曲、「君のユメ ぼくのユメ」もそういった意味合いからカタカナ表記にしたのだろう。受け手のイメージを固定しない、幅をもっと広げるための細工だ。 君のユメ ぼくのユメ 一緒ならうれしいね 私は、この歌詞が一番泣けた。 メロディもいかにもスガシカオだった。この曲調がお好きな方はきっとスガさんの楽曲にはまるとおもう。オリジナルアルバムから入ると 最後まで湿っぽい空気を出さずに終わったのは、ある意味こういう形で脱退することになった田口さんにできる最良のカタチだったように思う。タモリさんの「入口ってことか?」というフリにも愛を感じた。タモさんのこういうところが大好きである。 最後まで笑っておちゃらけていたけれど、あれでもし泣いていたらどうだっただろう。脱退する道を選んだのは自分なのになぜ泣く?と叩かれるだろうことは目に見えている。最後まで、悪い言い方をするならヘラヘラしていた田口さんは強いと思った。あの態度を冷たいととらえる人もいるだろうが、私にはそうは思えなかった。 心のどこかでは、KAT-TUNを脱退することに対する後悔のようなものを見せてほしかったところもある。あの場で涙すればそれを見せることはできただろう。 でも後悔してはいけないのだ。少なくとも、今はまだ。それを見せてしまえば自ら招き入れたこの事態を、こうして迎えた10周年を、本当の本当にぶち壊すことになる。 田口さんの脱退からグループの活動休止という方向に進んでいったのは明白なのに、ここで泣いて詫びたところで、寂しさを訴えたところでどうにもならない。「泣くくらいなら、なんで?」と、もっと悲惨な状態になるだけだ。そっちのほうが辛い。 突然の脱退発表から最後の活動となったこのステージまで、本当に意志を貫き通したなと思った。それは去る者として一番真摯な態度なのかもしれない。ある意味ではかっこよくて、ある意味でひどい。 相変わらず脱退の理由や今後については不透明な状態だ。よくわからない状態なのに、ニコニコしながら、付け入る隙もなく変に期待させずに真っ直ぐ前を向く形で去っていった。「ムカつく!」と言わせてもらえる余白を残していった。だから、素直にムカついてもいいのだと思う。 もしも神様がいて 過去を変えられるとして"なにも変えませんよ"って言える日々にしたいんだ(「君のユメ ぼくのユメ」/KAT-TUN) これからKAT-TUNとして活動していく3人にとってももちろんそうであってほしい。でも、別の道を歩む田口さんも「脱退した側」としてこういう日々を過ごしてほしいと思う。戻れるなら戻りたいと思うような生半可な気持ちにはなってほしくない。こういう結果を招いた責任を、変えようがない過去を背負っていかなければいけない。 この曲の歌詞について、スガさんはこう語っている。彼らのまっすぐな気持ちやファンの皆さんへの思いを、丁寧にメロディーと言葉にしました。3/22リリース『KAT-TUN 10TH ANNIVERSARY BEST 10Ks』にて、作詞作曲をさせていただきました 曲のタイトルは、メンバーが付けた。歌詞の中からタイトルとして抽出されたのは「君のユメ ぼくのユメ」という部分だった。 4人として最後の「Real Face」。セットといい、衣装や良い感じに影を落とすような照明の色合いといい、多くの人がKAT-TUNの印象として抱き続けてきただろう尖った雰囲気のKAT-TUNだった。本当にこれで最後なのかと思ってしまうくらいだった。泣く暇も無かった。 そこから暗転し、セットを移動する。 背後からの光を受けて歩いてくるシルエットは、3人だ。田口さんはもう、いない。 真っ暗な中、シンプルに照明やスモークを使って魅せるこの演出はとても綺麗で、切なかった。 上田さんは歌いながら、後ろを向いて表情を隠すように泣いていた。思わずもらい泣きしてしまった。 最後のサビは直前に暗転、その間にセットが転換される。一面が明るくなり画が引きになって、視界がひらけた瞬間にそこにあったのは桜と、桜吹雪が舞う光景だった。目をうるませながらも力強く歌う、歌おうとする3人の姿にもやっぱり泣けてしまった。 グループのメンバーが脱退する、活動が休止になる。とてもじゃないがこの状態で明るい未来だけをまっすぐに信じるのは難しい。 しんどくて悲しくて、無かったことにしたくてもできなくて、嫌いになりたくてもなれなくてモヤモヤして、心理状態的にはとてもじゃないけどまだ視界はひらけていない状態なのに、この演出だ。 心が追いつかないのにこんな演出をするなんてズルい。でも、最高だった。切なくてかなしくてやっぱりどこかモヤモヤしてしまったが、それでも最高だった。 もうただただ感動してしまって、今回ブログに書き残しておくことにした。 3人はこれからもKAT-TUNとして活動していくことを選んだ。充電期間がどれくらいになるかわからないが、もしかしたらそこまで悲観することもないかもしれない。 私も以前、応援しているアーティストが「活動を休止して各々ソロ活動に力を入れる」と言い始めた時は正直 休止という道を選んだからには、帰ってくるのだ。 というかあんな楽曲をファンに渡すだけ渡しておいていなくなったりしたら、その時こそブチ切れてやろうと思う。外野のくせに、だ。 「感動を返せ!私の涙を返せ!」と、でもきっと実現せずに終わるだろう。そしてまたKAT-TUNとしてパフォーマンスをする姿を見て、どうせ泣くに決まっているのだ。その日を楽しみにしている。 ここから先だけ丁寧な言葉になってしまってなんだか変な感じがするが、こんなところまで言い切る形で書いてしまったらそれこそ「お前何様だよ!」という話なので、ここだけは丁寧に書かせて頂く。 田口さん、ほんとうにお疲れ様でした。選んだ限りはその道を後悔せずに進んでほしいと願うばかり。 そして遅ればせながら。KAT-TUNデビュー10周年おめでとうございます。 これから先3人でどんなユメを描いて見せてくれるのか、私は密かに期待している。 KAT-TUN、最後のMステで4人から3人になる演出 新曲は3人で歌唱 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