シリア ロシア トルコ

シリア ロシア トルコ

【10月23日 afp】トルコとロシアは22日、シリアのクルド人勢力を対トルコ国境付近から撤退させ、同地域で共同巡視活動を開始することで合意した。 シリア人権監視団は、2011年3月(シリアでの反政府運動が開始時)から2019年3月までの8年間で空爆と砲撃による犠牲者数は、ロシア軍によるものが4870、(米国が主導する)有志連合軍によるものが3818、トルコ軍によるものが842と報告している(The Syrian Observatory for Human Rights)。 ロシアも「乗員1人が脱出後に地上から銃撃を受けて死亡した」と発表している(もう1人は消息不明)。Su-24は撃墜される前、シリアのトルコ系少数民族トルクメン人の居住地域を爆撃していたという。 シリア・イドリブから逃れてトラックで移動する国内避難民=ロイター. スィネム・ジェンギズどの国にも国論を二分するような議題というものがいついかなるときも存する。内外の課題の中で一貫して他を圧するような問題だ。トルコの場合それは過去10年、一にシリア紛争であり、また戦乱の焦土から逃れてきた難民の問題である。年を追うほどに新たな問題が積み重なり、いずれ早期に解決するような目処もない。その理由はごまんとある。まず何より、今後数年間シリアで起こることが何であれ、戦争の終結がいかなる形のものであれ、トルコ政府には一見の客である意思はないということ。利得が集約するだけに、この隣国の将来に口を挟む権利を残すことはトルコの至上命令だ。トルコ政府はこれまでにもこの最終目標のためハードパワーもソフトパワーも駆使してきたし、汗をかいた分だけの実入りは得たい考えだ。が、こうした目標達成のためとはいえ、トルコとしてはシリア紛争の利得で他の主要プレーヤーと鋭く対立することは避けたい。これはつまりロシア・イラン・米国ということで、いずれの国も紛争の先鋭化に果たした役割は大きい。この10年、トルコの対露関係・対イラン関係、また対米関係・対EU関係は厳しい試練にさらされ、その結果数多くの危機を生んだ。これら利害関係国との関係を決定的に損ねない手堅い道筋を探ることはトルコ政府にとって、これまでもこれからも難題なのだ。第三に、シリア難民をめぐる議論は人道問題の次元を越えて国内政策・対外政策に影響する政治課題となっている。トルコ政府は当初10万人までの難民受け入れとしたが、今では400万人以上が流入している。これはトルコ国内で、経済的にも社会的にも政府を圧迫する問題となっている。トルコでは国論を二分するような議論は多岐にわたるが、シリア難民問題ほど分裂した問題もない。トルコが欧州諸国へ手を替え品を替え難民の話を持ち出すゆえんもこうしたところにありそうだ。第四に、トルコ政府の対シリア政策はもともと野党勢力の批判材料だった。このため政府は、シリア問題はトルコ国民の安全安心の問題なのだと正当化する方向性を強め、「シリアの平和はトルコの平和」なるスローガンにまでいたっている。これまでトルコはシリアで三次にわたる軍事作戦を実行、トルコの安全保障上の危難とされるテロリストの脅威を取り除くためとした。こうした軍事作戦についても、二分した国民からそれぞれ賛否が寄せられている。トルコ政府の対シリア政策がどう持ち堪えるか、今週のモスクワ会談が現地情勢にどう影響するか。時のみぞ知る、だ。スィネム・ジェンギズ最後に、シリア紛争は一体トルコにとって擾乱の脅威というよりないが、わけてもイドリブ問題の解決は至難の業と思われる。いまシリア北西部で起きていることはもはや代理戦争なのではない。トルコ軍とシリア政権軍が正面から対峙しているのだ。むろんシリア政権軍の頼れる後ろ盾はロシアだ。最近イドリブでトルコの車両縦隊が襲撃され、トルコ兵33人が殺害された一件は転機となった。アスタナ・プロセスやソチ合意でトルコとロシアが得た進展がすべてふいになりかねなかった。トルコ軍がシリア軍根拠地へ報復攻撃を仕掛けたことで情勢はさらに混沌とすることとなった。ロシアの意図するところは何か。シリア反体制派最後の拠点イドリブで、支援先のアサド政権側の勝利を得たいのはむろんのことだ。勝利すればロシアの対中東拡大政策にも道が開ける。勝てば西側、特に米国に対する決定的な勝利ともなりうるのだ。が、これが通ればトルコが長らく温めてきた対シリア計画とぶつかることになる。こうした二律背反のなか、トルコとロシアの指導者はいかなる妥結点を見いだせるのか。4日、問題解決のためトルコのエルドアン大統領はモスクワへ飛び、ロシアのプーチン大統領との直接会談に臨んだ。エルドアン氏はプーチン氏とはこの数年間何度も会っている。が、今回の会談はこれまでとは決定的に違った。両首脳はシリアの重大局面を論じる上で、合意を図るため会ったのではなかった。「合意しないことで合意する」ために会ったのだ。シリア内戦の勃発以来、両首脳は危機が起こるたびに手を取り合ってきた。ロシア機撃墜、トルコによる越境軍事作戦「ユーフラテスの盾」「オリーブの枝」「平和の泉」などといった危機からもともかく活路を見いだしてきたのがこの二人だ。アスタナ平和プロセスもこの二人が絵を描いた。政府寄りのトルコ人コラムニストがこんなことを書いている。「エルドアン氏がプーチン氏に寄せる信頼は揺らいでいる。今のところまだ、『わが友プーチン氏』と呼んでいて、『プーチン大統領』とそっけなく呼ぶまでにはいたっていないが」。プーチン氏はエルドアン氏との会談前の合同記者会見で、殺害されたトルコ兵らへ哀悼の意を表した。エルドアン氏は、トルコ政府としてロシアとのつながりを深めイドリブの危機の解決策を見いだしたい、と語った。最も耳目を惹く言葉はプーチン氏の口から出た。「イドリブ情勢の悪化はかつてないものだ。このため、われわれ二人が個人的に会い、こうしたことは二度と起こらないしロシアとトルコの関係も破綻しないとわざわざ言わねばならぬほどだ」イドリブはすべての岐路に立つだけにトルコ政府にとってはシリア紛争における重大局面といえる。トルコがイドリブ撤退を余儀なくされる場合、これまで軍事作戦を実行してきた場所からの全面撤退につながりかねない。目下の情勢ではトルコ政府にはとうてい飲めない選択肢だ。この場を何とか切り抜けられれば今後シリアでの発言権が強まるばかりか、さらに広い圏域でも大きく出られることは、トルコ政府も百も承知だ。トルコ政府の対シリア政策がどう持ち堪えるか、今週のモスクワ会談が現地情勢にどう影響するか。時が経てばいずれわかる。 まず、この1カ月間にトルコ国境に接するイドリブ県で起きたことをざっと振り返ってみたい。2月3日にはアサド政権軍による砲撃で、トルコ軍兵士ら8人が死亡。それに怒ったトルコは、ロシアとアサド政権に対し、2月末までに、イドリブ県一帯に設けた停戦監視ラインの外側まで撤退するよう要求。間もなくロシアとの話し合いの場が持たれたが、その間も攻勢はやまず、10日にはアサド政権軍の砲弾で再びトルコ軍兵士5人が犠牲になった。これを受け、トルコはイドリブ県への兵力増強を進め、これまでに戦闘部隊を含む約1万5000人が送られた。しかし、アサド政権軍の進軍は続き、すでにイドリブ県の30%以上を支配下に収めた。トルコ軍とアサド政権軍の正面衝突もさることながら、周囲を驚かせたのはエルドアン大統領の痛烈なロシア批判だ。歯に衣着せぬ物言いで知られるエルドアン大統領だが、ことロシアに対しては神経を使ってきたからだ。「2月末までに撤退しなければあらゆる措置をとる」と、いわば最後通牒を突き付け、「アサド政権軍とロシア軍はイドリブで市民を虐殺している」とロシアの直接的関与を非難した。こうしたトルコの態度に、プーチン大統領は「トルコこそ両国間の合意を果たさずテロリストの拡大を許した。われわれがやっているのはテロリストの掃討だ」と訴え、情勢悪化の原因はトルコにあるとした。トルコのロシア批判の裏には、さらなる難民流入と、「イドリブ後」への危機感がある。トルコは国内にすでに360万人以上のシリア難民を抱えており、もはや受け入れ能力は超えている。世論の反難民感情も高まっており、今や8割が受け入れに反対と言われている。国連は、昨年12月以降、イドリブでは約90万人が避難を強いられており、攻撃で病院や学校などが爆撃されていると訴えている。トルコのもう一つの危惧は、「イドリブ陥落後」にアサド政権軍が、シリア北部でトルコが制圧した地域に攻め入るのではないかという点だ。そうなればトルコがシリアから全面撤退を迫られかねず、シリアの今後を話し合う上での政治的発言権を失うにとどまらず、シリア再興に向けた経済的利益までも取り損ねるとの危機感がある。シリア内戦終結に向け、国連主導の協議が実のある成果を出せない中、シリアに既得権益を持つトルコ、ロシア、イランが中心となり2017年から進めたのが、3ヵ国会合「アスタナ・プロセス」である。3ヵ国は2017年5月、シリア国内にイドリブ県を含む4つの「緊張緩和地帯」を設定することで合意し、この4地帯ではあらゆる戦闘行為を禁止した。その中でも最大面積をもつイドリブ県では、主に北部にトルコ、中部にロシア、南東部にはイランが勢力範囲を保ち、南西部でアサド政権と過激派反政府組織が対峙するという複雑な状況が続いていた。しかし合意後もアサド政権軍の攻撃は止まず、18年にはイドリブ県を除く3ヵ所の緊張緩和地帯が陥落。反体制派が敗走したイドリブ県が、最後の砦となった。トルコは3ヵ国合意に基づき、2017年10月から、イドリブ県を囲むように停戦監視のための12の監視塔を建設した。一方、ロシアとアサド政権軍にとっては、反体制派が一カ所にまとまることは、将来的なイドリブ奪還に向けた好条件となった。2018年9月には、トルコとロシアが、ロシアのソチでイドリブ県に関するいわゆる「ソチ合意」を締結した。主な内容は、イドリブ県の反体制派とアサド政権軍との間に幅20㎞の「非武装地帯」を設けるべく、トルコがその地域からテロリストを一掃するとともに、同地域の安全を確保するというものだ。だが、計画通りには進まず、合意は形骸化した。その頃、トルコ南東部のシリア国境付近では、アメリカが支援するクルド勢力による越境砲撃が相次いでおり、トルコの関心は国内治安に直接影響を及ぼすその地域に向かっていった。イドリブ情勢をめぐってトルコが強いロシア批判をくり返していることが驚きをもってみられているのは、ここ数年、トルコは「最もロシアに近いNATO加盟国」と呼ばれるほどロシアとは関係を深めてきたからだ。話は2015年にさかのぼる。ロシアのシリアへの本格介入が始まって間もない2015年10月、ロシア軍機によるトルコ領空侵犯が頻発、トルコは再三抗議したが収まらず、ついに11月、撃墜するに至った。領空侵犯を否定するロシアの怒りはトルコの想像以上で、間もなくロシアはトルコに対する厳しい経済制裁を課した。トルコにとってロシアはドイツに次ぐ2番目の貿易相手国であるだけに、トルコからの農産物輸入禁止措置や、年間500万人近い観光客をトルコに送り込んでいたチャーター機の運航中止などは、直接的にトルコ経済を打ちのめし、その損失額は80億ドル以上と試算された。経済界からの強い要望を受ける形で、エルドアン大統領は2016年6月、プーチン大統領に公式謝罪。その後、制裁は段階的に解除され、同年7月の政府転覆を狙ったトルコのクーデター未遂事件時は、プーチン大統領が真っ先にエルドアン大統領に電話をかけ支持を表明。事件の背後にはアメリカがいたと噂されており、こうしたロシアの態度に世論もなびき、いわば「雨降って地固まる」形となった。こうした背景の中で、アメリカやNATOから猛反対を受けたロシア製地対空ミサイルシステム「S400」購入の議論も進められていた。最近のロシアとの関係悪化の一方、アメリカとは距離を縮めつつある。2月11日にはシリア特使が来訪し、「NATOの一員として」のトルコへの支援を強調。その後の両首脳電話会談では、トランプ大統領はイドリブにおけるトルコの人道危機回避努力に謝意を伝えた。アメリカの支援表明は、この地域で拡大するイランの影響力拡大への懸念がある。イランは2011年の内戦ぼっ発時からアサド政権を支援。シーア派民兵を多数送りこみ、湾岸地域からイラク、シリア、レバノンに至る「シーア派の三日月」と呼ばれる地域での影響力拡大を狙っている。イドリブは地中海へのアクセス地点としても要衝である。こうした野心を警戒するのは、シーア派民兵がこの地域で勢力を増せば、アメリカの盟友イスラエルへの脅威にもなるからだ。懸念はそれだけではない。シリアのユーフラテス川東側地域では、これまでのトルコ対アメリカの構図が、今やロシア対アメリカの様相を呈している。昨年10月にトランプ大統領が突然シリアからの米軍撤退を宣言した後、米軍勢力範囲だったこの地域はロシア軍に明け渡された。その後アメリカは再び政策を変更、一部部隊の駐留が続いているが、北東部の要衝カミシュリの空軍基地を含む複数の基地もロシアに引き渡され、ロシアはそこから偵察機やドローンを頻繁に飛ばすようになった。検問所などでの両国間の小競り合いは徐々に増えており、アメリカは神経をとがらせている。「イドリブ後」を懸念しているのはアメリカも同様だ。ロシアとアサド政権軍がこの地域に向かってくると危機感を抱いている。「過激派組織イスラム国からの防衛」目的の油田地帯も、「ロシアとアサド政権軍からの防衛」になるのは時間の問題とみられている。こうした状況の中で、中東への関与に否定的で、これまでも突然の政策変更を表明してきたトランプ大統領の反応に、関係者は気をもんでいる様子だ。アメリカの歩み寄りの一方、NATOの反応は鈍い。シリア内戦悪化により、NATOはトルコの要請に応じ2013年にトルコ南東部の計3か所にミサイル防衛システム「パトリオット」を設置。だが、アメリカとドイツが担っていた2か所は、2015年末に「配備場所の再編」(アメリカ政府)、「現在の脅威はミサイルを保持していないイスラム国」(ドイツ政府)などの理由で撤去された。当時、NATO内には、ウクライナとロシアの緊張を受け、東ヨーロッパへのミサイル配備を重視すべきとの声も多かった。また、ロシアとの関係改善以降、トルコは制空権を押さえるロシアから事実上の「承認」を受ける形で、シリア北部で単独軍事作戦を行ったり、ロシアからのS400購入を決定したりすると、NATOとトルコの距離が離れていった。ロシアのタス通信は2月17日、NATO加盟国外交官の話として、「トルコ軍兵士の死は悲劇だが、トルコの単独軍事行動で起きたもの」とし、NATOとしてのトルコ支援に否定的な見方を報じた。トルコ政府は2月末までに、ソチ合意に基づきトルコが設置した12の監視塔の外にアサド政権軍が撤退することを求めているが、主要幹線道路など重要拠点を制圧し続ける今、政権軍が大幅な撤退に応じることは見込めないだろう。トルコはロシアとアサド政権軍の攻撃で深刻な人道危機が発生していることを訴え、国際世論を味方につけようとしているが、思うように支持は広がっていない。一方のアサド大統領はイドリブ県での進軍継続を明言。トルコとの全面衝突も辞さない姿勢を示している。トルコは戦闘部隊を含む約1万5000人の兵をイドリブに投入したものの、制空権を握っているのはロシアだ。シリア国内でロシア空軍の拠点であるラタキアの基地にはS400も配備されており、その南部タルトゥス海軍基地ではロシア軍艦がトルコ軍機の領空侵犯を見張っている。モスクワで行われていた両国間の今月2回目の会合は、成果を出せないまま18日に終了した。シリア情勢を巡ってトルコの通貨リラの下落圧力も高まっており、トルコはこれ以上のリラ安を防ぐべく、ロシアとの全面衝突は回避したい。エルドアン大統領の「越境攻撃は時間の問題だ」などとする威勢のいい発言はトルコ国内向けであり、ロシアとの落としどころを見つけるべく躍起になっている、と見る識者もいる。一方のロシアもNATO加盟国トルコとの全面戦争は望んでいないとみられる。また、内戦終結後はシリア再建の中心的存在になることをもくろんでおり、トルコと連携して進めてきたアスタナ・プロセスの成果は維持したい。ロシアとトルコの間で停戦合意に至るとすれば、現状に近い形で行われるとみるのが現実的だろう。トルコ国境と、イドリブを南北と東西につなぐ2つの主要幹線道路に囲まれた地域を安全地帯とし、トルコ管理の下で国内避難民を集める、一方で、ロシア、アサド政権軍がその外で過激派相手に対テロ掃討作戦をするなどのシナリオがありうる。劣勢挽回が見込めない中、トルコとアメリカとの交渉では、パトリオット配備についても協議されているとみる専門家もいる。トルコ国境に配備することで、両国がそれぞれ抱く「イドリブ後」の懸念も緩和される。だが、アメリカからは具体的な支援策について、いまだ聞こえてこないのが現状だ。エルドアン大統領の設定した期限まであと1週間。今週、両国間の第3回目の協議が行われる。同時並行でアサド政権軍の進軍は続くとみられ、既成事実が重なっていくほどトルコの選択肢は狭められていく。トルコ9代目大統領スレイマン・デミレルは、かつてこう言った。「トルコの政治にとって、24時間という時間は長すぎる」。2020年も、この言葉を実感する1年となりそうだ。東西の間で、西に東に揺れ動くトルコ。トルコの強みとは、魅力とは、課題とは。アナトリアの大地から、等身大のトルコと人々の息づかいをリポートします。「GLOBE+」メルマガ登録メルマガ登録世界の今日は私の明日につながっている

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