1917 彼らは生き てい た
『彼らを生きていた』は1月25日から渋谷のシアターイメージフォーラムほか全国順次公開でございます。 最初の『1917 命をかけた伝令』は2月14日から全国ロードショーとなっております。 絶対にセットでみようと心に決めていた、「彼らは生きていた」と「1917」。 1日でハシゴできるタイミングがあったので、行ってきた。 (2月の話) kareraha.com 「彼らは生きていた」は、第一次世界大戦の退役軍人らのインタビュー音声とカラー化した当時の映像や写真と組み合わせたドキュメンタ … 「彼らは生きていた」確かに生きていたと実感できる素晴らしい体験。ぜひとも「1917」と合わせてこちらも観て欲しい。二つはすごく第一次大戦「当時」を身近な物だと… タイトル通り、「1917 命をかけた伝令」(原題: 1917)と「彼らは生きていた」(原題: They Shall Not Grow Old)を見た。 どちらも第一次世界大戦のイギリス軍をテーマにした映画で、前者はフィクション、後者は実際のフィルムや写真を基にしたドキュメンタリーだ。 今回はピータージャクソン監督によるドキュメンタリー映画「彼らは生きていた」についてご紹介します。ww1の映像を現代の技術を駆使して蘇らせたドキュメンタリー映画。戦争の恐ろしさが生々しく描かれる今作。1917とセットで鑑賞することをオススメします! 町山智浩さんが2020年1月14日放送の町山さん『1917 命をかけた伝令』と『彼らは生きていた』を紹介♬— シャノン (@Luvde_barge) (町山智浩)今日はですね、戦争映画を紹介させていただきます。1本はもうすぐ公開される映画で、もう1本はアカデミー賞の作品賞候補になって、ゴールデングローブ賞でも作品賞を取った作品です。これはね、両方とも第一次世界大戦の西部戦線というのがありまして。フランスであったんですけども。両方とも、それを描いた映画なんですけども。それで両方ともイギリス軍の戦いを描いています。1本はですね、1917年にあった戦争の映画なんで『1917 命をかけた伝令』という映画で。これはゴールデングローブ賞の作品賞と監督賞を取りました。(赤江珠緒)おおー!(町山智浩)もう1本はですね、『彼らは生きていた』というドキュメンタリーです。で、『1917』の方はですね、監督が『007』の大傑作だった『スカイフォール』の監督のサム・メンデスという人で。『彼らは生きていた』の方は『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズってありますよね? 『指輪物語』。あれの監督だったピーター・ジャクソンです。(赤江珠緒)うわっ、どっちも娯楽作品っていう。大作の。へー!(町山智浩)そうですね。2人ともだからもうアカデミー賞を取ってる人ですよ。で、これね、2つとも共通するのは、どっちも監督のお爺さんがイギリス兵として第一次大戦最大の激戦地・西部戦線に出兵していて、子供の時にお爺さんからその話を聞かされて、それを映画化したという作品なんですよ。(赤江珠緒)へー!(町山智浩)で、まず『1917 命をかけた伝令』の方から説明しますと、このサム・メンデスっていう人はですね、「メンデス」っていうのはラテン系の名前なんですよね。この人、お爺さんはカリブ海のトリニダード・トバゴ出身のアフリカ系とポルトガルの混血の人なんですよ。で、当時、19世紀の終わりはトリニダードはイギリス領だったんで。彼は15歳の時にイギリスに渡って、第一世界大戦が始まったんで19歳でイギリス軍に入隊したそうです。で、その時の話をサム・メンデスにお爺さんになってからずっと話していたらしいんですよ。サム・メンデスが子供の頃に。で、そのお爺ちゃんは信号兵というものになったんですよ。(赤江珠緒)うん。(町山智浩)信号兵っていうのは手旗とかいろんな信号で情報とか命令を伝えたり、伝令で駆けずり回ったりする係ですね。(赤江珠緒)そうか。第一次世界大戦はまだそういう感じですか。手旗信号。(町山智浩)そうそう。無線はなくて。有線はあったみたいなんですけども。でも、手旗ってすごく優秀ですよ。敵にそんなに発見されにくかったり、あと光の速度で遠くまで届きますから。で、まあそういう信号兵だったんですけれども。それでこのお爺さん、アルフレッドっていう人は西部戦線というところに送られたんですね。で、その西部戦線っていうのは『西部戦線異状なし』という名作戦争映画がありますけども。これ、ご覧になっています?(赤江珠緒)はい。すごい塹壕の中で……っていう。(町山智浩)その通りです! 塹壕戦なんですよ。これはですね、ドイツとフランスの国境線に沿ってずっと続いていた巨大な戦線があって。それが西部戦線なんですけども。それでドイツ軍とフランスとイギリスの連合軍が激突するんですね。戦線で。戦線というのは「戦争のライン」なんですね。で、このラインで一進一退しながら1914年から18年まで4年間も西部戦線では攻防戦が続いたんですよ。で、この両軍の戦死者が民間人を含めて推定450万人というすごい数なんですよ。(赤江珠緒)とんでもない人数ですね!(町山智浩)死者だけでですよ。もうひとつの都市の人口全部が死んだっていうぐらいのすさまじい戦闘だったんですね。で、何でそんなになっちゃったか?っていう話をします。それはね、まず塹壕戦でお互いの軍隊が平行に塹壕という溝を掘って、そこに歩兵が入って、横一列で一斉に突撃するんですよ。それで敵陣を占領しようとする陣取り合戦が続いたんですね。で、それだけだったら良かったんですけど。そういう戦闘は昔からあるから。ただ、そこに新兵器が次々と投入されちゃったんですよ。まず機関銃です。それまでなかった機関銃が投入された。あとは航空機からの爆撃。戦車。それらがその時に発明されて導入されて。それからあとは毒ガスですよ。つまり大量殺人兵器がどんどんそこにつぎ込まれてしまった。ところがそこではその以前からの南北戦争と変わらない突撃戦をやってたんですね。それで兵隊たちが生身の体で突撃をすると、そこには機関銃が待っているわけですよ。それでブワーッと殺されちゃうわけですよ。(赤江珠緒)うん……。(町山智浩)で、これはその10年前にあった日露戦争で、あの有名な203高地でね、その機関銃陣地に日本軍が歩兵を突撃させ続けて大量の犠牲者が出たっていう件があったんですけども。そこからヨーロッパは学ばなかったんですね。(赤江珠緒)そうなんですね……。(町山智浩)そう。同じことを繰り返して。それも4年間もそれを続けて、ひたすら突撃をさせるという。(赤江珠緒)これ、もうどうしようもないっていうことで、どこかで誰かが止めなかったのかな?っていうね。(町山智浩)そう。「やめろよ!」っていうことなんですけどね。「もっと他のことを考えろよ!」っていうね。でも、役所仕事だから延々と続くんですよ。無意味な突撃をやらせてるうちに450万人も死んでしまうたというひどい話なんですけれども。で、これは2つの塹壕の線が並んでると、その2つの塹壕に挟まれた真ん中の部分というのは両方の軍隊からの砲弾と機関銃が届くから、人がいられない世界になるわけですよ。そこにいたらもうすぐ、両軍から撃たれても殺されちゃうんで。そこをね、無人地帯なんで「ノー・マンズ・ランド」と呼ぶんですよね。「人のいない世界」でノー・マンズ・ランドなんですね。で、ここでは突撃した両軍の兵士たちがそこで倒れてケガをしても、基本的に誰も助けに来れないんですよ。(赤江珠緒)うんうん。(町山智浩)どこから砲弾が飛んでくるか分からないから。そこで、そのさっき言ったサム・メンデス監督のお爺さんが受けた使命は敵に気づかれないように1人でノー・マンズ・ランドに入って、置いてきぼりにされてまだ生きてる負傷兵を見つけて、その位置を知らせることなんですよ。(赤江珠緒)ほうほう。うん。(町山智浩)そうしたら、夜のうちに救護隊がこっそり助けに行く。ただし無意味には行けないから、先に行って事前に倒れてる人の場所を確認しろという使命、命がけのミッションをやって、このお爺さんは勲章をもらったと孫のサムに自慢をしていたそうなんですよ。(赤江珠緒)ふーん!(町山智浩)で、その話を元にしてサム・メンデス監督は今回、新しいお話を作ったんですね。それはその西部戦線で2人の若い兵隊さん、伝令兵がある命令を運ぶ仕事をするんですね。で、その命令っていうのは翌朝、ある部隊が突撃、進撃をしようとしてるんですけども。それを止めろっていう命令なんですよ。それは彼らが突撃する先のドイツ軍は撤退したふりをして、イギリス軍を引き込むとしているんですよ。(赤江珠緒)ああ、罠だと。(町山智浩)罠。それで引き込んだところに猛爆撃をして皆殺しにしようとしている。だからそこに今、行ってその命令を伝えて突撃を中止させろという。(赤江珠緒)それは重要任務ですね。(町山智浩)そう。その命令が伝わらないと、その舞台は朝の突撃でたぶん皆殺しになる。そういう使命を受けてそのはるか離れた舞台に向かってその伝令兵の2人が進んでいくっていう話なんですよ。(赤江珠緒)うんうん。(町山智浩)で、この映画が監督賞とかいろんな賞にノミネートされたりとか、賞を取ってる理由っていうのは、この2人の伝令の旅を全編カットなしのひとつながりのショットで見せてるからなんです。(赤江珠緒)ええっ?(町山智浩)ずーっとひとつの画面がつながっていて、1回も切れないんですよ。(赤江珠緒)へー!(町山智浩)で、これは実際にはそうやって撮ってはいないんですけども、デジタルでつなげているんですよね。ひとつながりに見えるようにつなげているんですよ。で、ずっとカメラが手持ちで追いかけて、その2人の兵士がいろんな冒険をしていくのを撮っていくという形になってます。これはロジャー・ディーキンスっていうすごい名カメラマンが撮っているんですけども。これを見ていてね、一番近いものはすごくリアルなゲームで、シューティングゲームとかやりますか?(山里亮太)はい。(町山智浩)ああ、やりますか? あれに近いですね。ゲームをやってるみたいな感じ。(山里亮太)同じ画面で。(町山智浩)そうそうそう。同じ視点でずっと、まあこちら側の体と……基本的に後姿ですよね。それと敵がどんどん出てきて、それと戦っていくというのをずっと追いかけていくという、まあゲームみたいな映画になっていますね。(赤江珠緒)本当にじゃあ、自分も戦場にいるみたいな状況を感じるわけですね。(町山智浩)そうなんですよ。だから体感ゲーム、戦争を体感させる映画になってます。ただね、技術的にはすごいですけども、これは話が「突撃を止めようとする2人の人の話」なんで。肝心の戦闘そのものはほとんど描かれないんですよ。だって止めに行くんだもん。(赤江珠緒)そうかそうか。うん。(町山智浩)だから実際の西部戦線がどんなものなのかはこの映画だけだと分からないんですよ。(赤江珠緒)そうですね。非常に部分的な話ですよね。(町山智浩)そうなんです。まあ脇の話なんですよ。で、西部戦線自体が一体どうだったかがすごくよく分かるのは、その今回紹介するもう1本の映画の『彼らは生きていた』の方なんですよ。で、これはさっき言った『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソン監督なんですけども。彼のお爺さんは……ピーター・ジャクソンはニュージーランドの人なんですけども、お爺さんがニュージーランドに移民する前、10代の頃にイギリス軍に入って西部戦線に行ってるんですよ。で、その話をピーター・ジャクソンは聞かされていたんですけど、これが面白いのは、そのお爺さんは西部戦線最大の激戦の「ソンムの戦い」というのに従軍したんですね。ソンムの戦いというのはこれがね、たった4ヶ月で100万人が死んだっていう酷い塹壕突撃戦だったんですけど。(赤江珠緒)ええっ!(町山智浩)それで「最悪の戦場」と言われてるんですが。『ロード・オブ・ザ・リング』の原作の『指輪物語』を書いたJ・R・R・トールキンもそこにいたんですよ。(赤江珠緒)ええーっ!(町山智浩)これも映画になってますけども。彼は兵隊としてそこにいたんですよ。(赤江珠緒)それで生き残って?(町山智浩)生き残ったんです。2人とも負傷したおかげで逆にその後ろに退けられて死なないで済んだみたいなところがあるんですよね。機関銃で撃たれて負傷して。でもこれ、面白いのはその同じ戦場にいた人の孫がそのトールキンの原作を映画化したんですよ。だからすごい偶然なんですけど。で、このピーター・ジャクソン監督が今回やったその『彼らは生きていた』は映画としてはドキュメンタリーなんですね。(赤江珠緒)ドキュメンタリー?(町山智浩)それで第一次世界大戦当時、100年前ですけれども。もう映画が発明されていたんで、大量のフィルムが残っているんですよ。で、それをイギリス政府が沢山保管していたのを全部見て、それをつないでその西部戦線の全てを描こうとしたんですよ。(赤江珠緒)へー!(町山智浩)『彼らは生きていた』っていうのの「彼ら」はその兵隊たちなんですけども。これ、原題はですね、『They Shall Not Grow Old』。「彼らは歳を取らない」っていうタイトルなんですよ。それは、死んでしまったからですね。(赤江珠緒)そうですね……。(町山智浩)でね、またその「昔のフィルムをつなぎ合わせただけ」って考えると、その当時はサイレントで白黒でカチャカチャしたフィルムなわけですよ。昔の映画って動きがカチャカチャしているでしょう? あれはどうしてか?っていうと、カメラを手回ししているからなんです。(赤江珠緒)ふーん!(町山智浩)モーターじゃなくて手で回しているからちょっと早すぎたり遅すぎたりして、その回転数が一定じゃないんですね。(赤江珠緒)たしかに。独特な動きになりますね。白黒のは。(町山智浩)そうなんです。だからね、まずこのピーター・ジャクソンはフィルムを全部コンピューターで同じ速度に……現在のフィルムと同じ速度に変えているんですよ。で、そうすると普通の現在の映像のように見えるんですね。で、さらにコンピューターを使って全部カラーにしています。(赤江珠緒)ああー! それは印象が違うでしょうね。(町山智浩)全く違います。だから本当に最近撮った映像に見えるんですよ。もう傷とかも全然ないんで。細かいところも修正してあるので本当にリアルな、そこらで撮ったような映像に見えるようにしてます。(赤江珠緒)ウワーッ!(町山智浩)あとね、サイレントだから音が録れてないんですね。で、これは2つの方法で音を入れてて。ひとつはその戦争の後、国営放送のBBCとかが生還した兵士たちに大量にインタビューをしてるんですよ。で、その何百時間もある音声をつなぎ合わせて物語にしてます。だからこれね、ナレーションがなくて全部兵士たちの実際の言葉だけなんですよ。「あの時、俺はこんなことをした」とか。そういうことを言っているのがずっと音が入っていて。で、あとはフィルムで兵士の口が動いてるフィルムは読唇術……唇を読むことができる人を使ってセリフを解析して声優さんに吹き替えさせています。(赤江珠緒)そうですか!(町山智浩)すごいことをしていますね。で、あとはいろんな爆音とかも入れて、それでほとんどもう最近撮ったフィルムのように全部作り直してるんですよ。で、そうすると昔のものじゃなくてそこにいる人たち、兵隊たちが本当にそこらにいるお兄ちゃんたちに見えてくるんですよね。(赤江珠緒)そうですよね。自分たちと変わらない感じに途端に見えてきますね。(町山智浩)そうなんです。それでまずね、この映画で驚くのは出てくる兵隊さんたちが若い。15、6の子とかいるんですよ。子供ですよ。僕からするともう子供以下ですよ!(赤江珠緒)そうですよね。みんな10代。(町山智浩)でね、19歳ぐらいからなんですよ。その頃の兵隊さんって。でもね、ものすごく愛国的な、愛国心の高揚に駆られた若者たちが年齢を偽って、親が止めるにもかかわらず家出をして兵隊に入ったんですよ。その当時、イギリスでは。あと、その頃は身分社会だったので貧しかったんで、労働者とか農家の三男坊とか四男坊とかは将来がまるでなかったんですよ。学校なんか絶対に行けないし。一生貧乏な小作人だったので、そこから脱出するチャンスはそれだけ、兵隊に入るだけだったんですよ。(赤江珠緒)それで志願をするという形で。(町山智浩)そう。そうしない限り、ずっと田舎で小作人なんですよ。だからみんなその兵隊に夢を見ても、バーッと15、6の子供が志願をしていったんですよ。(赤江珠緒)で、その結果が塹壕で……。(町山智浩)まあでも最初はご飯を食べさせてもらえます。お腹いっぱいご飯を食べるなんてみんな、初めてですよ。その頃は。靴だってもらえたんだもん。その頃、靴なんて贅沢品ですよ。だから「わあ!」って喜ぶんですよ。子供たちだからみんな。「こんなお腹いっぱい食べたの、初めてだ!」喜んで、それでその塹壕に行かされると、それがもうドロドロなんですよ。水浸しでね、水が冷たいから冬だとみんな凍傷で手足の指が腐って落ちるんですよ。で、死体がそこら中に放置されてるから……要するに死体を回収しに行けないわけですよ。撃たれるから。そうすると、みんなそれをネズミが食っていくわけですよね。だからそこら中がネズミだらけなんですよ。(赤江珠緒)ひどいですね……。(町山智浩)それで服はシラミだらけだし。それでずっと死体の匂いがするし。しかも塹壕に入っていても毒ガスが入ってくるんですよ。それで今度は突撃ということになるんですよね。そうすると今度は一斉に塹壕をみんな飛び出して、ノー・マンズ・ランドに飛び出して、そこを銃を持って進んでいくんですけど、死体だらけなんですよ。地面の上を歩くのではなくて、死体の上を歩いているんですよ。そういう話をずっとしていくんですよ。その西部戦線を経験した兵士たちがね、生の声で。それで死体の上をまっすぐ歩けないので這ったりしながら行くと、前から機関銃の弾幕で。敵からの機関銃がバンバン仲間の頭とかを吹き飛ばしていくんですね。それでも負傷兵を助けることもできないんですよ。放置していくしかないんです。(赤江珠緒)はあ……。(町山智浩)それでやっと敵陣に近いところにたどり着くと、そこには有刺鉄線のバリケードがあるんですよ。有刺鉄線のバリケード、幅が10メートルもあるですよ。それをこう、ニッパーで切っていきながらゆっくりと進んでいくんですけど。そこの状態をまたさらに撃たれるんですよ。もう逃げられないですよ。有刺鉄線の中を切り進んでいるんだから。で、しかもそこまで来ると味方の砲弾が飛んでくるんですよ。(赤江珠緒)もう地獄としか言いようがない……。(町山智浩)そう。味方の砲弾が空中で炸裂して、その破片を地面に撒き散らすんで、その破片に貫かれるんですよ。で、バリケードを突破すると今度は敵兵とやっと出会うわけですね。するとまず最初に火炎放射器で焼かれるんですよ。(赤江珠緒)ええっ?(町山智浩)それでそれも突破すると、今度やっと敵とぶつかり合って白兵戦になるんですね。肉弾戦になるんです。するともうこれはナイフで刺し合い、殺し合いですよ。銃剣で。殴り合いですよ。それで今度は、それをやっと制したと思って、敵が降参して白旗を上げて降伏するんですね。でも、こっちはもうものすごい阿修羅のような精神状態ですから、相手が白旗を上げていても、殺意を止められないんですよ。だからね、無抵抗で白旗を上げている敵兵を皆殺しにしたっていうんですよ。でも、そのアドレナリンがブワーッと醒めるわけじゃないですか。そうすると、自分が刺したり撃ったドイツ兵たちを見ると、自分と同じ17、8の子供なんですよ。それでまだ血を流して、致命傷を負って「ママ……」とか言ってるんですよ。(赤江珠緒)ええ……。(町山智浩)だからその時に「うわあ! ごめんなさい!」って言いながら、水筒の水を飲ませたっていう話が出てくるんですね。そうすると、そのドイツ兵が「ダンケシェーン」と言いながら死んでいったという。その時に、そのイギリス兵はこういう言葉を言うんですよ。「僕が戦争に対して抱いてた子供っぽい英雄的な格好いい幻想は木っ端みじんに消え失せた」って言うんですよ。まあ、すごい内容ですよ。こっちは。これは本当の戦場の真実を描いていて。(赤江珠緒)現実ですからね。しかし、なにをやってるんだ?っていう話ですね。本当に。(町山智浩)そうなんですよ。ただね、希望もあるんですよ。戦闘が鎮まって生き残った敵兵とやっぱり話すことになるんですね。捕虜と。そうすると、彼らがその普通の床屋さんとかお百姓さんやその息子だっていうことが分かってくるんですよ。自分たちと同じ、1人ひとりは普通の子供たちなだと分かって、仲良くなってタバコを分け与えたりね、談笑をしたりするんですよ。1人ひとりになっちゃうと友達になれるんですよ。でも、さっきまではもう「敵は鬼だ」とか言って信じてたんですよね。でもね、国と国とが対立をすると、相手が普通の人だっていうことを忘れちゃうんですよ。1人ひとりはまったく憎み合っているわけでも何でもないのに。だからね、やっぱりそれを忘れるなっていう映画になってますね。はい。それが『彼らは生きていた』というドキュメンタリーで。これはすごかったですね。(赤江珠緒)そうですか。『彼らを生きていた』は1月25日から渋谷のシアターイメージフォーラムほか全国順次公開でございます。最初の『1917 命をかけた伝令』は2月14日から全国ロードショーとなっております。本当ね、人間は……。(町山智浩)本当にすごい映画でした。はい。(赤江珠緒)町山さん、ありがとうございました!(町山智浩)どうもでした!<書き起こしおわり>
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